「研究ってなにしてるの?よくわかんない。」って言われます。研究とは“研ぎ澄まし究めること”だそうです。
巨人の肩の上
アイザック・ニュートンの言葉です。研ぎ澄まし究めればそれは研究と呼べるかも知れません。例えば、スーパーマリオブラザーズの最速クリアも研究成果かもしれません。しかし、これは趣味の成果では?と思われるかもしれません。いわゆる研究成果とは、ニュートンの運動方程式や山中伸弥教授のiPS細胞のように科学において研ぎ澄まし究めた結果、新たに発見・生み出されたことを指すのかも知れません。
ところで科学ってなにさ?と疑問を持つかも知れません。日本学術振興会(日本の研究者に血税を元にした科研費を配分する機関)の細目表では、科学は、系>分野>分科>細目で整理されています。例えば、理工系(系)・数物系科学(分野)・数学(分科)・代数学(細目)です。この中で私は、総合系(系)・情報学(分野)・計算基盤(分科)・ソフトウェア(細目)でソフトウェア工学の研究をしています。ソフトウェア工学とは「ソフトウェアの作り方を作ること」であり(と自分の中では定義していて)、その発端は1968年の第1回NATOソフトウェア工学会議で提唱されたソフトウェア危機にあると言われています。ざっくり言うと、コンピュータは賢くなっていくのにエンジニアがアホだと世の中は豊かにならん、というお話です。ということで、ソフトウェア工学の研究者たちは、大半を占める普通のエンジニアたちでも不世出なエンジニアのごとく働けるよう、様々な新しく有用な(無用な)概念や技術などを生み出してきました。例えば、新卒エンジニア志望が(なんとなく動く)プログラムを実装できるのは、ソフトウェア工学の偉大な研究成果の1つであるオブジェクト指向プログラミング等のおかげだと思います。
話を戻すと、研究とは何か?でした。研究成果を良く表す博士号(Ph.D.)を例に挙げると、Matt Might博士のPh.D.図解がわかりやすいです。研究では、研究者はまず(1)今の知識の限界に到達する必要があります。この記事の読者のほとんどは専門・大学・修士卒だと思うので、知識の限界にピンとこないかもしれません。知識を得るとは所謂勉強で、例えばかけ算九九です。かけ算九九は昔々だれか(巨人)が生み出したものですよね、これが今の知識です。さらに方程式や微積分、解析学と中学・高校・大学で勉強します、これらも今の知識です。これを突き詰めていくと、どこにも解法がない問題に直面します。これが今の知識の限界です。なんとなくイメージできたでしょうか。ここに到達すると(巨人の肩の上に乗ると)研究者は次に(2)限界を突破できるよう新しい何かを発見したり産みだしたりします。(1)って(2)と比べて研究っぽくない(勉強っぽい)しそんなことやってたら途方もない、と思うかもしれませんが、そんな人は車輪の再発明を調べてください。途方もなくてもやらねばなりません。
今回のアドベントカレンダーのテーマは「チャレンジ」でした。この記事のどこがチャレンジか?全てです。ソフトウェア工学は50年強の歴史の中で、少なくとも6万人強の研究者たちが研究成果を積み上げてきています。まずは(1)巨人の肩に乗ること、これら研究成果を把握することがチャレンジです。次に(2)巨人の肩の上で立ち上がり、さらに遠く(未来)を見つめる必要があります。Publish or Perishという言葉があります。訳すと、「論文を出すか死か」。研究者は研究成果を論文として出せなければ簡単にクビになります。そんな研究職で生計を立てようというのはかなりのチャレンジです。これらに加えて、(3)その見つめた先にある新発見を元に世の中を豊かにすること。これができると素晴らしいですね。並大抵の論文では出版できても誰も読んでくれません。社会に歴史に影響を与えるような新発見を元にインパクトのある論文を出版し、研究者(私)自身も巨人の一部になり、そして巨人を導く(Lead)のです。表題に戻り、Leading Researcherになる、これが私のチャレンジです。(なんか煙に巻いた感じですね…)
ケンブリッジ大学内にあるニュートンの石像
ニュートンが万有引力を発見したというリンゴの木